果物のラベルに魅せられて

カリフォルニアの広大なオリーブ農場風景(実際の渡米時のものではありません)

KAZUE MASAKIの特別寄稿エッセイ

果物のラベルに魅せられて

果物のラベルに魅せられたのは1986年、滞米生活が終わる寸前であった。
当時は若さ故広いアメリカを飛行機で旅行する余裕はなく、車に荷物を積み込んで二人の子供を連れ、家族4人でひたすら車を走らせる、ブロッコリー畑が続くかと思えば次はトウモロコシ畑、道の両側に続くただただ広い畑と地平線を眺めながらひたすら走る。


突然現れる小さな町に車をとめてぶらぶら歩くと思いがけない出会いがある。偶然目にした古本屋に入る。初めて見る果物農場のラベルが目に留まる。100年近く前まで使われていた果物を詰めた木箱に貼るラベルである。なんとも美しい。

小学生の息子と幼稚園の娘も床に座り込んで沢山のラベルの中から気に入ったものを探す作業を楽しんでいる。

その後渡米のたびにカリフォルニアのプランテーションやキャニングカンパニーを訪ね歩き、幻のラベルを探す。かつての農場主を知人から紹介され、そこで手にした葡萄のラベルの数々。その葡萄のラベルをモチーフに大きな作品を手掛け、公募展入選も叶った。

90年代も終わろうとする頃、さらに海を越えて、ヨーロッパの洋酒、カクテル用材料のラベルも手元に集まった。すべて原料は果物である。ラベルのモチーフは多種多様にデザインされた果物達。その趣に魅せられてしまう。

額絵の作品にするべく準備を勧め、さあ取り掛かろうという時、病魔に襲われた。
25年後に蘇るときが来るとは思いもしなかった。

1990年当時、実際に渡米した際に行ったカリフォルニアやハリウッド近郊等の写真

一昨年の春、我が家を訪れた友人の目が、壁の額絵に留まった。
それからが大忙し、作り方の説明からモチーフの謂れまで話は尽きない。
その上眠っていた私の制作意欲を掘り起こされてしまった。

クローゼットにしまい込んでいた段ボールの中から、30年前に集めたラベル達を探し出し、必要な材料をかき集めて、額絵作りを始める。楽しくて仕方がない。
仕事を辞めたばかりで時間は際限なくあるはず、それでも24時間はあっという間に過ぎて行く。

3か月もするとまとまった作品が出来上がる。額に入れる段になり、壁にぶち当たる。
25年前までは都内にいくつもあった額装専門店が姿を消してしまっている。

私の立体画を飾るためには額装に技術とコツがいる、多少のセンスも欲しい。
いろいろあたってみるが心当たりが見つからず、仕方なく自分で額装を試みる。

以前用意してあった額に、既製品を買い込み、米国滞在中にフレーマーから教えられた額装を思い出しながら挑戦してみる。
プロには及ばないが、何とか整ったころ、友人から個展をしないかとお声がかかる。

あまりにも想定外のこと故、随分悩んだ末、28年ぶりの個展を決意。

2023年3月、家裁の仕事を終えて1年がたっていた。鎌倉駅近くにある友人の姉上が営む画廊は都内からは遠く、友人知人に知らせるのもためらわれたが、思いがけなく懐かしい友人たちが訪れてくれた。

中高時代の友人が偶然一緒になり、ミニ同窓会になったり、職場の同期と趣味の世界で話が弾んだり、米国時代の友人と再会できたり、教室で教えていた時の生徒さんがいらしたり、想定していなかった大きな副産物をもたらしてくれた。

最終日には昔の上司のお嬢様がいらしたり、夫の従兄弟夫婦が訪れ、大きな展開への道がひらかれることになった。

2か月後の晴天の日、作品を持って夫の従兄弟夫婦に連れられ、イタリアンレストランで美味しい食事をいただきながら、夢中で話していた。そして翌年(2024年)の7月、8月このお店で作品展示することが決まった。夢のような出来事である。

沢山のラベルの中から、色合いやデザインを見ながら、作品にしたいものを選ぶ作業も楽しい。
色が落ちないように加工してから、カットする。カットの技法は20代のころ学んだ型染が役立っている。
カットしたピースを立体に組み立てる。組み立てが終了したら、湿度の低いお天気の日を見計らって、表面を加工する。ガラス状になるまで乾いては塗を繰り返す。大好きな漆塗りの手法をまねている。
30年前、漆工房を訪ね、人間国宝の先生の作業を見せていただいた。

作品が完成したら、額装する。ここからは額装のプロにお願いするのだが難題である。
以前お願いしていた額装専門店は都内から消えていた。いろいろたどってやっと見つけたプロの職人、我が家からは遠い都外である。
完成した作品をこわれないよう箱に入れ持ち運ぶのは骨が折れるが、頑張る。
出来上がった額装を見る喜びには代えられない。

 

ポップ・アート・デコは、欧州や米国で親しまれたデコパージュが原点にある。
カットは20代に学んだ型染のテクニックを生かし、日本の伝統工芸’蒔絵’の深い光沢をイメージするなど独自の技法を駆使している。独特の興味深いモチーフを感じていただけたら嬉しい。

written by KAZUE MASAKI

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